2018年10月13日

紙芝居『ツシマヤマネコのシマ』

紙芝居『ツシマヤマネコのシマ』は2017年の京都市動物園にて行われた、やまねこ博覧会で初めて公開されたものです。
絵本作家のキム・ファンさんがストーリーを作り、MITの吉野由起子が絵を描きました。
博覧会では子ども達の前でキムさんが紙芝居を披露してくださいました。キムさんのご了解を頂いて、紙芝居の全文をご紹介します。  (コピー・転送・スクリーンショットでの保存はご遠慮ください。)

ツシマヤマネコのシマは、ことしうまれた おとこのこ。

おかあさんと どうろをわたって、たんぼにやってきました。

シマ

「おかあさん、ここはどこ?」

おかあさん

「にんげんがつくった たんぼよ。

ここには、カエルも ネズミも バッタもいるから、

たべものには こまらないの。」

シマ

「やった! もうぼく、おなか ぺこぺこだよ。」

おかあさん

「あなたは、まだ かりが へただものね。

だから、ここに つれてきたのよ。

さぁ、かりを してみなさい。」

シマ

「いたっ! カエルだ!」

シマは てで カエルをおさえつけると、

むしゃむしゃと いっきに たいらげました。

シマ

「あっ、ネズミだ! それっ!

やった、いいぞ!

おかあさん、ぼく、ネズミも つかまえられたよ!」

おかあさん

「よかったわね。」

 

(少しの間)

 

シマはたんぼで、つぎつぎと かりを せいこうさせました。

シマ

「ふうー。たべた。たべた。ひさしぶりに おなかいっぱいだ。

でも……ぼくに かりを おしえるのなら、

さいしょから ここにしてくれれば、らくでよかったのに。」

おかあさん

「シマ、あれを みてごらん。」

ぶうーん ぶうーん

どうろのうえを おおきな おとを たてながら、

くるまが もうスピードで はしっています。

シマ

「あれは なに?」

おかあさん

「あれは くるまというもの。

にんげんが のっているの。

わたしたちが どんなに はやく はしっても、

くるまには かなわないわ。」

そのとき、いっとうの こジカが、どうろを わたりました。

プップーーー!

キィーッ!

ドン!

こジカは、どうろに たおれたまま

ぴくりとも うごきません。

 

(少しの間)

 

ぶるるん ぶるるん

ぶ、ぶうーん

しばらくすると くるまは、

なにごとも なかったかのように、

そのまま はしりさって しまったのです。

おかあさん

「あぁー、シカちゃん、かわいそうに……。」

シマ

「にんげんて、なんて、ひどいんだ!」

おかあさん

「わかったでしょ、シマ!

たんぼには たべものが たくさんあるわ。

でも、ここに くるには、どうろを わたらなくては

いけないの。だから、おなかが へってへって、

もう どうしても がまんできなくなった、

そのときにだけ たんぼにくるのよ。いい?」

シマ

「うん。わかった。どうろは おそろしい ところなんだね。

そして、にんげんも。」

(少しの間)

シマは ひとりで くらしだしました。

おかあさんの いいつけをよくまもり、

たんぼには けっして ちかづきませんでした。

ところが、ザー ザー。

あめが なんにちも なんにちも ふりつづきました。

ネズミも とりも バッタも、

どこかに かくれて でてきません。

シマ

「あぁあ、いつ、やむんだろう。このごろ ネズミ

たべてないなぁ……。カエルでいいから たべたいよぅ。」

ぐうー、ぎゅるぎゅる ぐうー

シマのおなかが なりました。もう がまんの げんかいです。

シマ

「あっ、そうだ! こんなときは たんぼにいっても

いいって、おかあさんがいってた。

よるなら、くるまも こないや。

たんぼで ごはんをたべるんだ!」

おなかのすいた シマは、ふらふらと あるきつづけました。

シマ

「うあーっ! すごいぞ! すごい!」

まだ、たんぼにも ついていないのに、

たくさんの カエルが、じっとしているでは ありませんか!

シマ

「こりゃ、ついてるぞ。カエルが いくらでも とれる!」

シマは むちゅうで たべました。

シマが たべて いたのは、

くるまに ひかれた カエルだったのです。

― ゆっくりぬきながら ―

ぶうーん ぶうーん

おおきな トラックが どんどん シマに ちかづいてきます。

もぐもぐ むしゃむしゃ

シマは、トラックに きが つきません。

プップーーー!

シマ

「し、しまった!わっ!」

シマは ぎりぎりのところで トラックを よけ、

なんとか たすかりました。

シマ

「あぁ、あぶなかった。

もうすこしで ひかれるところだった……。

おかあさん、ぼく こわくて、どうろを わたれないよ。

たんぼにも いけないよう……。」

 

どうろの むこうがわに たんぼが みえます。

 

あさに なり、あめが ようやく あがりました。

にんげんが やってきました。

先生

「さあ、みんな、ゴミがたまった すいろのそうじだぞ。」

子ども①

「せんせい、ほんとうに この すいろ、

ヤマネコが つかっているんですか?」

先生

「ああ、『ねこばしり』をあるく ヤマネコをみたよ。」

子ども②

「『ねこばしり』? なんですか、それっ?」

先生

「ゴミを とれば わかるよ。はじめるよ。」

せんせいと こどもたちが ゴミを とりのぞくと、

子ども①

「ほんとだ、ヤマネコの みちが でてきた!

はしにある、ほそい みちが、『ねこばしり』なんだね。」

子ども②

「これを つかえば、どうろを わたらなくても いいね。」

せんせいと こどもたちは そうじが おわると、

かえって いきました。

でも、シマは ヤマネコです。

にんげんが なにを はなしていたのか、

まったく わかりません。

 

シマ

「これはなんだ? なんでもいいけど、

すいろのみずに ぬれなくていいや。

らくちん。らくちん。」

たったった たったった

シマは 『ねこばしり』を あるきました。

 

シマ

「あれっ?  もしかすると……。」

たたたっ、たたたっ

シマは はしりだしました。

シマ

「お、おかあさん、ぼくだよ!」

『ねこばしり』を わたりきったシマが みつけたのは、

たんぼのなかにいた おかあさんでした。

おかあさん

「まぁ、シマ、げんきにしてたのね!

どうろを わたってはいけないと おしえたけれど、

ぶじに わたれたのね。」

へへへ。シマは といげに わらいました。

シマ

「ぼく、いわれたとおり、どうろ わたらなかったよ。」

おかあさん

「えっ? じゃあ、どうやって ここに きたの?」

シマ

「あのね、おかあさん、すごく いいものが あるんだ!

みせてあげるから ついてきて!」

シマは おかあさんを 『ねこばしり』まで あんないしました。

シマ

「おかあさん、これをつかうとね、

どうろを わたらずに たんぼに いけるんだよ。

これね、にんげんが つくって くれたみたいなんだ。

にんげんは、わるいやつばかりじゃ ないみたい。」

おかあさん

「そう、にんげんが……。」

(少しの間)

おかあさん、あなたから はじめておしえてもらった。

うれしいわ。シマも せいちようしたのね。」

シマ

「へへ―。

でも、おかあさん、ぼく、もう おなかが ぺこぺこだよ。」

 

ヤマネコの おやこは また、たんぼに もどり、

おなかいっぱい たべました。

 

おわり。